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令和7年(2025)8月、津市河芸町東千里のマリーナ河芸を訪れました。駐車場から椰子の木が並ぶ堤防を越えて砂浜に出ると伊勢湾が見渡せる絶景スポットです。その階段の柱には人魚のモニュメントがあり、伊勢湾の人魚伝説を思い起こしました。じつは伊勢湾には人魚にまつわる言い伝えが数多く残されているのです。
時は平安、崇徳天皇と近衛天皇の御代(1123~1155)、伊勢国奄芸郡別保(津市河芸町中別保)の浜で漁師の網に3頭の人魚がかかりました。具体的には、国道23号線沿いのイオンタウン津河芸や豊津上野駅(近鉄名古屋線)の東側に位置する芦浜海岸と考えられます。頭は人、口は猿、歯と体は魚という容姿(「かしらは人のやうにて有ながら、ははこまかにて、うおにたがはず、口さし出て猿ににたりけり、身はよのつねの魚にて有ける」『古今著聞集』)で、人のように涙を流して大きな声で叫んだといいます。その大きさは二人がかりで引きずり運ぶ程だったそうです。漁師らは伊勢平氏の棟梁平忠盛(1096~1153)のもとへ届けたものの、1頭は下げ渡されたため、切り刻んで食べました。気になるお味は、「あぢはひことによかりける」となかなかの美味だったことが記されています。
時は流れ、室町時代に入った延文2年(1357)4月3日、二見浦(伊勢市二見町)で人魚が見つかったことが『嘉元記』に記されています。
また、時期は不明ながら津市安濃町草生に暮らす17歳の娘お里が村人に出された人魚の肉を食べたところ不老長寿となり、村人たちにいつまでも美しいと羨ましがられましたが、いつしか気味悪く思われ、諸国放浪の旅に発ったといいます。お里は何百年か後に故郷に戻って亡くなったといいます。
このような伊勢湾における人魚伝説を踏まえてのことでしょうか、桑名市長島町松ヶ島の桑名市長島B&G海洋センターのフェンスには人魚のモニュメントがあります。
ただし、長島と河芸のモニュメントはいずれも上半身が人間の女性、下半身が魚になっており、デンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805~1875)の「人魚姫」(1837年発行)、ディズニー映画「リトル・マーメイド」(1989年公開)などでよく知られる西洋の人魚に近いイメージのデザインです。
この平安時代の人魚、じつはジュゴンの可能性があるのです。沖縄を北限とする温暖な海に生息するジュゴンが伊勢湾にいることは不思議に思われるかもしれませんが、縄文時代後期から晩期にかけての渥美半島の保美貝塚(愛知県田原市保美町)ではジュゴンの骨が出土しており、近代になっても愛知県知多郡野間村(愛知県知多郡美浜町)で確認されています。つまり、生息しているのではなく、迷入したものです。伊勢湾にも一定数の迷い込みがあり、当時の漁師たちはさぞ驚いたことでしょう。
なお、鳥羽水族館(鳥羽市鳥羽)では、ジュゴンが飼育されており、日本で唯一ジュゴンに会える水族館となっています。鳥羽水族館のジュゴン「セレナ」(タガログ語で「人魚」の意味)はフィリピンで保護され、昭和62年(1987)に来館しました。
また、人魚はクジラやイルカが誤認されたものとも言われます。じつはイルカも生物分類学上ではクジラの仲間で、成体の体長が4~5m以下のものをイルカと呼び分けているだけのことです。日本一の面積を誇る内湾である伊勢湾では、小型のイルカ「スナメリ」が多く生息しています。体長2.0m程度で、伊勢湾と三河湾には約3700頭がいると考えられています。桑名沖でも、好奇心旺盛なスナメリは航行する船舶に興味をもって寄ってくることがあるそうです。このように迷い込んだジュゴンや、伊勢湾に多く生息するイルカが伊勢湾の人魚伝説につながったのかもしれません。
西村健二「【長島発!】伊勢湾の『人魚伝説』をご紹介します。」桑名市社会福祉協議会ホームページ 2020
沖縄県立博物館・美術館『海とジュゴンと貝塚人~貝塚が語る9000年のくらし』沖縄県立博物館・美術館 2021
北村淳一『集まれ!三重のクジラとイルカたち』三重県総合博物館 2022
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人魚像(三重県津市河芸町東千里、マリーナ河芸)
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人魚をデザインしたフェンス(三重県桑名市長島町松ヶ島、桑名市長島B&G海洋センター)
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人魚伝説がのこる福井県敦賀市の「人魚の像」(福井県小浜市小浜日吉、マーメイドテラス)

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